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東京高等裁判所 平成9年(ネ)3351号 判決 1998年3月31日

新潟県南魚沼郡塩沢町大字長崎三四三三番地一

控訴人

株式会社石坂製材所

右代表者代表取締役

石坂正外

新潟県南魚沼郡塩沢町大字姥沢新田二三六番地四

控訴人

石坂豪

右両名訴訟代理人弁護士

高橋賢一

右補佐人弁理士

吉井昭栄

吉井剛

静岡県榛原郡金谷町牛尾八六九番地の一

被控訴人

株式会社寺田製作所

右代表者代表取締役

寺田順一

徳島県三好郡山城町上名一二二〇番地

被控訴人

水原源次

徳島県三好郡山城町上名一〇四五番地

被控訴人

谷口亀次

徳島県三好郡山城町下名二一〇八番地

被控訴人

踊場助人

徳島県三好郡山城町上名七八四の一

被控訴人

小笠原富春

徳島県三好郡山城町上名一二一二番地

被控訴人

森本二郎

徳島県三好郡山城町上名一七五の一

被控訴人

岡田祥輔

徳島県三好郡山城町上名一七二四番地

被控訴人

中山博司

徳島県三好郡山城町上名一四九〇番地

被控訴人

瀬詰又三郎

徳島県三好郡山城町上名一六〇三の一

被控訴人

垣成清利

高知県長岡郡大豊町怒田三津子野一六八四番地

被控訴人

上村周一郎

高知県長岡郡大豊町西峰三七六三

被控訴人

三谷英美

高知県長岡郡大豊町岩原四九〇番地

被控訴人

小笠原啓哲

高知県長岡郡大豊町和田五四〇番地

被控訴人

原則好

高知県長岡郡大豊町和田四五九

被控訴人

田内孝仁

高知県長岡郡大豊町西峰三四〇一番地

被控訴人

三谷延世

高知県長岡郡大豊町柚木一〇一

被控訴人

平石喜代治

高知県長岡郡大豊町穴内一九七一

被控訴人

吉川俊一

高知県長岡郡大豊町岩原三九三番地

被控訴人

下村清一

高知県長岡郡大豊町岩原三八三番地

被控訴人

小笠原茂樹

高知県長岡郡大豊町怒田一一一五番地

被控訴人

小笠原貞雄

高知県長岡郡大豊町岩原五八九番地

被控訴人

山川鹿則

高知県長岡郡大豊町柚木二五五番地

被控訴人

松田彦一

高知県長岡郡大豊町岩原三八五番地

被控訴人

小笠原隆一

右二四名訴訟代理人弁護士

寺内從道

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決中、被控訴人らに関する部分を取り消す。

2  被控訴人株式会社寺田製作所(以下「被控訴人寺田製作所」という。)は、原判決添付イ号物件目録記載の「ゼンマイ乾燥機」(以下「イ号物件」という。)の製造、販売及び頒布をしてはならない。

3  被控訴人水原源次、同谷口亀次、同踊場助人、同小笠原富春、同森本二郎、同岡田祥輔、同中山博司、同瀬詰又三郎、同垣成清利、同上村周一郎、同三谷英美、同小笠原啓哲、同原則好、同田内孝仁、同三谷延世、同平石喜代治、同吉川俊一、同下村清一、同小笠原茂樹、同小笠原貞雄、同山川鹿則、同松田彦一、同小笠原隆一(以下、同被控訴人らについては合わせて「被控訴人水原ら」という。)は、イ号物件を各廃棄せよ。

4  被控訴人寺田製作所は、控訴人石坂豪(以下「控訴人石坂」という。)に対し、八八〇〇万円及びこれに対する平成六年二月六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

5  被控訴人水原らは、控訴人石坂に対し、それぞれ五〇万円ずつ及びこれに対する、被控訴人踊場助人、同小笠原富春、同岡田祥輔、同中山博司、同瀬詰又三郎、同垣成清利、同上村周一郎、同三谷英美、同小笠原啓哲、同田内孝仁、同三谷延世、同平石喜代治、同吉川俊一、同小笠原茂樹、同小笠原貞雄、同山川鹿則、同松田彦一、同小笠原隆一については平成六年二月六日から、同水原源次、同下村清一については同月八日から、同谷口亀次、同森本二郎については同月九日から、同原則好については同月一四日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

6  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

7  仮執行宣言

二  被控訴人ら

主文と同旨

第二  事案の概要

本件事案の概要は、次のとおり付加するほか、原判決における「事実及び理由」のうち、「第二 事案の概要」のとおりであるから、これを引用する(ただし、原審被告寺野満福に関する部分を除き、原判決一〇枚目表一〇行目の「用いても同様である。」を「用いても…同様である。」に改め、同枚目裏五行目の「明か」を「明らか」に改める。)。

一  控訴人らの当審における主張

1  本件発明の構成要件aの限定解釈について(争点1)

(一) 原判決は、特許請求の範囲を解釈するにあたっては、明細書における発明の詳細な説明欄の記載を参酌すべきである旨を判示する。

しかしながら、右の判示は、特許発明の技術的範囲を確定するにあたって、無条件に、発明の詳細な説明を参酌すべきであるとする点において著しく法的安定性を欠くこととなり、特許法七〇条一項の解釈を誤ったものといわなければならない。

すなわち、特許発明の技術的範囲の確定にあたっては、「法的安定性の見地から、原則として発明の構成に欠くことのできない事項のみが記載された特許請求の範囲に記載された構成により決めるべきもの」とすべきである。

したがって、最高裁平成三年三月八日判決(民集四五巻三号一二三頁)について、それが「特許発明の技術的範囲を確定する場合にまで及ぶものではなく、本件には適切ではない」とする原判決の判断は、相当でない。

特許請求の範囲の記載については、日本語として明瞭であり、発明の作用効果に合致しており、実施例により裏付けられていれば、無効事由を包含しない限り有効とされるべきであるから、特許発明の技術的範囲の確定にあたっては、原則として、特許請求の範囲の記載に基づいて定めるべきことになる。

(二) そして、本件発明の構成要件aにおける「通気可能な回転体」については、日本語として明確であり、かつ、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)に、その発明の作用効果を奏させるものとして必要かつ十分な記載であり、更に、その具体的な構造の一例は、明細書において実施例として記載されている。

したがって、本件発明の「通気可能な回転体」の意義は、一義的に明確であるから、その解釈について、明細書における発明の詳細な説明の記載を参酌すべき特段の事情があるとした原判決は、誤りである。

(三) なお、原判決は、本件発明が原出願から分割して出願されたものであり、本件発明と原出願に係る発明とは作用効果、図面等が同一であって、その技術的思想に何らの差異もないから、本件発明については、原出願より広い構成要件を認めるべきでないとする。

しかしながら、分割出願制度とは、一発明一出願の原則に反する一出願複数発明について、それを救済する制度であるとともに、出願明細書(原出願)に開示した内容について、出願後であっても、別出願により権利の請求を認める制度である。そのため、出願人は、特許請求の範囲から新たな発明を抜き出し、分割出願とすることができることはもちろん、発明の詳細な説明から新たな発明を抜き出し、分割出願とすることも認められるところである。

このように、分割出願は、そもそも特許請求の範囲の記載において原出願とは別個の発明となるものであり、発明の構成要件が異なる以上、原出願より広い構成要件となっても何ら不相当というべきではないし、更に、特許請求の範囲をどの程度広く記載するかは、出願人が自由に決定できることである。

したがって、原出願との対比において、本件発明の構成要件を限定して解釈することは許されない。

(四) 以上のとおりであるから、本件発明の構成要件のうち、「通気可能な回転体」について、これを限定的に解すべき理由はない。

そうすると、イ号物件は、原判決添付別紙1イ号物件目録に示すように、金属製の円筒の回転体を用い、その一方側部に金網を張設した大きな熱風供給用開口部を二個並設し、他方の側部に吸引用のファンを設置して、右ファンにより熱風を吸引するものであるから、「通気可能な回転体」を有するものということができ、本件発明の構成要件aを満たすものといわなければならない。

2  本件発明の構成要件bの解釈及び適用について(争点2)

(一) 本件発明の構成要件bについて

(1) 本件発明の構成要件bにおける「繰り返す」及び「制御」の技術的意義は、明細書における発明の詳細な説明の記載を参酌するまでもなく一義的であり、本件特許請求の範囲の記載の意義内容は明らかである。

(2)ア すなわち、まず、右の「繰り返す」については、その意義について、明細書において定義をして特別の意味に用いている訳ではないのであるから、通常の用法に従った用語として理解すべきである。

そして、一回しか回転しないようにできているものは「繰り返す」とはいわないことは自明である。

また、そのように解することにより、本件発明の作用効果とも合致し、何ら不相当な点はない。

したがって、本件発明の構成要件bにおける「繰り返す」との文言について、原判決が、明細書における実施例の記載を参酌し、「ぜんまいの乾物化が完了するまでの全工程にわたり」、遠心力によって上昇落下運動を「続けるものでなければならない」と判示し、「繰り返す」について限定を加えたことは、その解釈を誤ったものといわざるを得ない。

本件発明の特許請求の範囲の記載においては、ぜんまいの乾物化を完了するまで回転体を回転せしめる等の条件は、どこにも記載されていない。明細書には、あくまで、ぜんまいの乾物化処理をする際、ぜんまいの綿取りと揉捻を行い、それを完了させるという発明が記載され、特許請求の範囲とされているのである。

なお、実際は、綿取りが完了し、揉捻が手揉み同様の状態となり完了したならば、その後は、乾物化の工程上一番大切な仕上げ乾燥を、天日干しで行うものである。

したがって、本件発明の特許請求の範囲には、ぜんまいの乾物化が完全に終了するまで回転体の運転を続けるとの限定がまったくなされていないにもかかわらず、その点をわざわざ限定しなければならないとする原判決の判断は、特許法七〇条一項に反するものである。

イ(ア) また、本件発明の構成要件bにおける「制御する」なる文言は、造語ではなく、一般的に技術用語として使用されているものである。

したがって、「制御」の意味をそのまま使用し、本件発明の特許請求の範囲における「回転体上部まで上がり落下することを繰り返す速度に制御する」の記載を解釈すれば、「回転体の速度は、ぜんまいの重量と、遠心力、摩擦力とがほぼ釣り合い、ぜんまいが、回転の遠心力により回転体上部にまで上がり、そこに至ると、自らの重力により遊動落下して離散乱舞することを繰り返すような速度に調節する」と解され、そこには何ら不明瞭な点はない。

(イ) そして、本件発明の方法においては、機械操作の最初に、ぜんまいが、その量や乾燥の度合い等により、回転の遠心力により回転体上部にまで上がり、落下することを繰り返すような速度になるように、回転体の回転速度を適正な回転数に設定し、その後は回転数を調節しない場合も、「制御」に含まれ、また、右のとおり、最初に所定の回転数に設定して回転体を回転させた後、ぜんまいの量や乾燥の度合い等に応じ、ぜんまいが、遠心力により、回転体上部にまで上がり落下することを繰り返す状態を維持しているか否かを監視した上、当該状態を維持、実現すべく、回転途中において、当該回転体の回転速度を適正な回転数に調整する場合も、同様に「制御」に含まれるものと解される。

すなわち、ぜんまいを綿取り揉捻するための回転体の速度を、ぜんまいの上昇落下が繰り返されるよう、意図的に設定もしくは調整した場合には、本件発明の技術的範囲に含まれるものであり、この意図的な設定もしくは調整が、回転体の回転当初であろうが、途中であろうが、いずれも本件発明の特許請求の範囲に記載の「制御」にあたるものというべきである。

(3) 以上によれば、本件発明の構成要件bの記載は、回転体の回転数を、ぜんまいが、遠心力により回転体の上部にまで上がり落下することを繰り返す速度に設定、調節して、ぜんまいの綿取りと揉捻が行われる状態にすることであって、それ自体一義的に定まっており、明確なものというべきである。

(二) イ号物件について

(1) イ号物件においては、本件発明の構成に「桟」の構成が付加されたものであるが、その桟が独自の作用効果を奏するか否かにかかわらず、イ号物件による綿取り揉捻方法は、本件発明の技術的範囲に属するものというべきである。

ア すなわち、仮に、イ号物件の桟について、独自の作用効果が認められるとしても、特許発明の構成に対し、新たな構成要件が付加されたものについては、右の特許発明の技術的範囲に属するものと解すべきであり、そのように解さなければ、特許は模倣し放題ということになり、特許制度は根底から崩壊することになる。

イ そして、イ号物件においても、あくまでも遠心力の作用により、ぜんまいの上昇落下が行われていることは明らかであり、桟の作用効果は、右の遠心力による作用効果に加えて、付加的に発揮されているものに過ぎない。なぜならば、イ号物件においては、ぜんまいが、桟の作用のみにより、遠心力に関係なく、回転体の上部にまで上がり落下を繰り返すことは、物理的に起こり得ない(効果的な遠心力を無視して回転体を高速で回転させた場合には、ぜんまいは、回転体に張り付いた状態となるし、回転速度をきわめて低速にした場合には、ほとんどのぜんまいは、回転体内の5センチメートル幅の一本の桟に乗るはずがなく、上昇することはあり得ない。)。そのため、イ号物件においても、ぜんまいの投与量や湿り気等による重さ、摩擦等の諸条件が、その都度変化するならば、それに応じた遠心力に調整することによって、ぜんまいを回転体の内周面に沿わせて回転体の上部にまで持ち上げ、上部に到達したならば、それをばらばらと落下させることを繰り返す必要があり、そのための適正な回転速度に制御する必要がある。

したがって、イ号物件による綿取り揉捻方法についても、回転体の回転速度を可変調節する以上、本件発明の特許請求の範囲の「回転体の回転速度をぜんまいが遠心力により回転体上部まで上がり落下することを繰返す速度に制御すること」に該当し、桟の構成を付加したとしても、本件発明の技術的範囲に属するものというべきである。

(2) 他方、イ号物件の「桟」は、独自の作用効果を奏するものではない。

イ号物件の回転体に収納されたぜんまいについては、その一部が桟によりかき上げられるというべきであろうが、原判決の認定した、桟を斜設したことによる作用効果については立証されておらず、「遠心力と同時に桟のかきあげ力を加えてぜんまいの上昇落下を行わせ、回転速度の制御を不要にする」ものと認めることはできない。

また、原審における検証の結果によれば、イ号物件の回転体は、桟を付けた場合も、付けない場合も、ともに、二時間位の間にわたって、回転速度を、「ぜんまいが遠心力により回転体上部まで上がり落下することを繰り返す速度」として、回転するものであることが認められる。

更に、右検証の結果によると、ぜんまいは、桟の有無にかかわらず、遠心力により回転体の片側の内周面に張り付く状態により持ち上げられることが認められるのであり、この状態の場面において、桟の有無が何ら関係していないことは明らかである。

加えて、原判決において認定された、イ号物件の桟に付けられた角度により、ぜんまいが熱風の吸引側に集まるのを防止するとの作用効果は、本件において何ら立証されたものではない。

(三) 以上によれば、イ号物件による綿取り揉捻方法が本件発明の構成要件bを満たすことも明らかである。

二  控訴人らの当審における主張に対する被控訴人らの反論

1  本件発明の構成要件a、bの解釈について(争点1、2)

(一) 特許法は平成六年法律第一一六号により改正され、七〇条二項が追加されたが、それによると、特許請求の範囲の解釈にあたっては、無条件に明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載(その最たるものは発明の詳細な説明である。)を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈すべき旨が明示された。

したがって、原判決が、基本的立場として、「特許請求の範囲を解釈するにあたっては、発明の詳細な説明を参酌すべきである。」としたことは、右改正にも沿う妥当なものである。

(二) また、本件発明の特許請求の範囲の記載においては、「通気可能な回転体」について、期待される通気量はどの位か、通気方法に限定はないか等、「繰り返す」についても、どの程度の時間について繰り返す必要があるか等、その技術的意義が一義的に明確とはいえないから、本件発明の技術的範囲について、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すべき特別の事情が存在するものというべきである。

2  本件発明の構成要件bの解釈及び適用について(争点2)

(一) 控訴人らは、ぜんまいの乾物化の完了は本件発明の特許請求の範囲外の事項である旨を主張するが、明細書においては、本件発明の方法に係る回転体の回転のみによって、ぜんまいの乾物化を完了させることが念頭におかれていることは明らかである。

すなわち、本件発明においては、ぜんまいの乾物化が進められている間、その揉捻を行うことが必要であり、しかも、その乾物化の全工程を、人手を煩わすことなく行うことができることに、本件発明の作用効果の一つがあるのである。

このことは、本件発明において、ぜんまいの乾物化が完了するまでは、回転体を用いた揉捻、すなわち収納されたぜんまいの上昇及び落下の繰り返しが継続していなければならず、そのためには、回転体の回転速度の制御が必要であることを意味する。

ところが、イ号物件は、桟を取り付ける構成を設けたことにより、そうした制御を必要としないものであるから、本件発明とは構成要件を異にするものであり、本件特許権を侵害するものでないことは明らかである。

(二) 右のとおり、イ号物件による綿取り揉捻方法においては、桟を取り付けることにより、ぜんまいの乾物化の完了までの間、回転体の回転数を制御することは不要となる。

そのため、イ号物件の桟は、本件発明の構成要件の一つを不要とするものであり、本件発明の及び得ない作用効果をもたらすものであるから、決して、単なる付加的なものではなく、本件発明とは根本的に異なる技術的思想を表わすものである。

(三) 以上のとおり、イ号物件は、回転体に桟を付加することにより、本件発明における回転体の制御を不要としたものであり、本件発明を技術思想的に利用しておらず、本件発明の構成要件を欠くに至ったものであるから、本件発明の技術的範囲に属するものではない。

第三  証拠関係は、原審及び当審における訴訟記録中の証拠目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

第四  当裁判所の判断

一  本件発明について

前記第二において引用の原判決の認定に係る事実に、成立に争いのない乙第二号証(本件発明の出願公告公報)によると、本件発明の明細書における「発明の詳細な説明」欄には、本件発明について、次のとおり記載されていることが認められる。

1  本件発明は、山から採取したぜんまいを、能率よく、しかも美味に乾物化することができる、ぜんまいの綿取り揉捻方法に関するものである(一欄九行ないし一一行)。

2(一)  従来は、山から採取したぜんまいについて、まず、手作業により、一本ずつ綿帽子を除去する。

(二)  次に、ぜんまいを、沸騰したお湯で約三時間湯掻いて、水切り後、筵等の上に広げて天日を当て、手で押し揉みしながら、二、三日がかりで干し上げる。

ぜんまいの品質は、揉捻度と天気によりその良否が決まるため、揉捻作業は、日中片時も手抜きができない重要かつ重労働である。

この乾燥法を通称赤干しという。

(三)  また、湯掻いたぜんまいについて、樹脂の少ない広葉樹の生木を焚き、その上に網を乗せ、この網上でぜんまいをかき回しながら表面乾燥させた上、それを容器に充填して、石等の重しを乗せて内部の水分を押し出し、更に表面を乾燥させる方法がある。

これを繰り返して干し上げるが、この方法では、火加減の微妙な具合と油断でぜんまいに火ぶくれを生じさせたり、ぜんまいの、いわばパンクを招くものであり、熱気中の作業であるとともに、生木の煙のくすぶりのため目を傷つける等の重労働である。

この方法を通称青干しという。

(四)  更に、青干しと同じ方法であるが、煙を断ち、熱気、温風等でぜんまいを乾燥させる方法を緑干しという。

(五)  以上のように、従来のぜんまいの乾物法は大別して三種類あるが、いずれも大変な労力が必要であった(一欄一二行ないし二欄二二行)。

3  本件発明は、以上のような従来の方法の欠点を除去したものであり、特許請求の範囲に記載の方法を採用したものである(二欄二三行ないし三欄四行)。

4  本件発明の実施例について述べるならば以下のとおりである(別紙図面参照)。

(一) ぜんまい1を揉捻しながら、天日、紫外線発生燈、焚火2、温風などで乾物化する工程において、温風や煙を導入し得る通気可能な回転体3を、回転自在に設ける。

この回転体3内に、ぜんまい1を、遊動空間3'を残して収納する。

ぜんまい1を収納した回転体3を回転させながら、赤干し、青干し、緑干しのいずれかの乾燥を行い、同時に、回転体3の回転により、ぜんまいの綿帽子4の除去、揉捻を行う(三欄五行ないし一六行)。

(二) 回転体3の回転速度は、別紙図面第3図に示すように、回転体3に収納したぜんまい1が、回転体3の上部まで上がり、途中から回転体3の下部へ遊動落下する程度の一定速度を維持せしめる。

この場合、初めに、別紙図面第2図に示すような回転体3の内周方向に、ぜんまいが遠心力で均等厚に押し付けられる高速度でしばらく回転させ、遠心力で水切りをした後、第3図の状態を維持する中速度に落とし、回転体3の上部に集合せしめたぜんまいを、遊動空間3'に離散乱舞状態により落下させる。

この動作を繰り返すことにより綿が離脱し、かつ揉捻されることになる(三欄二四行ないし三五行)。

(三) 実施例においては、約五〇キログラムのぜんまいを乾物に仕上げるまでの工程を、ほぼ四時間で完了した(三欄三六行ないし三七行)。

(四) 別紙図面においては、回転体3として、金網の円筒体を採用し、その網目から通気せしめるように形成したが、回転体として、金属円筒に孔を多数散在穿設したものを用いても、円筒体状でない任意の形状に形成したものを用いてもよい(三欄四一行ないし四欄九行)。

5  本件発明は、綿帽子を除去するには、手作業で一本ずつ丁寧に除去するしかないと考えた従来の方法を見事解決したものであり、また、揉捻は、手揉みのように不均一な加圧による損傷もなく、機械力を用いた連続揉捻によるものであるため、手揉みとは比較にならないほど良好な揉捻が得られる(四欄一三行ないし一五行、五欄一行ないし三行)。

6  このように、本件発明は、大量のぜんまいの乾物化について、人手を煩わせることなく、単に、ぜんまいを、回転する回転体に収納して通気することにより、乾物化に要する全工程を一度に行ってしまうという生産能率良好なものであり、天候にも左右されず、乾燥の媒体も自由に選ぶことができるなど、優れたぜんまいの綿取り揉捻方法となる(五欄六行ないし六欄二行)。

二  争点1(本件発明の構成要件aの限定解釈の必要性)について

1  特許発明の技術的範囲とは、特許権の効力の及ぶ客観的範囲を意味するものであり、その具体的な範囲については、各明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきものである(特許法七〇条一項)。

そして、特許発明の技術的範囲を認定するにあたっては、当業者において特許請求の範囲記載の文言の技術的意義を一義的に明確に理解することができるときは、その文言に従って技術的範囲を定めるべきであり、その場合において、発明の詳細な説明の記載を参酌して殊更にその範囲を限定的に解釈することはできないというべきである。

2  これを本件についてみるならば、本件発明の構成要件aにおける「通気可能な回転体」とは、その文言自体の意義に照らし、密封されたものではなく、外部との空気の出入りの可能な構造を有する回転体を意味するものであるとともに、そのための通気方法、通気量等を特に限定するものではなく、「ぜんまいの綿取り揉捻方法」として、全体を均一に水分を保持して揉捻できるように通気可能とされた構造のものを包括して含むものであることが一義的に明らかというべきである。

また、この点について、前記一のとおりの、明細書における本件発明の詳細な説明の記載内容をみても、本件発明における「通気可能な回転体」を右のとおり解することを妨げるべき事由は見当たらず、回転体の通気方法、通気量等については、当業者において、ぜんまいの十分な乾物化を達成できるように適宜設計すべき事項に過ぎないものであって、「胴周面の全体に通気可能な部分が形成されている回転体」に限定されないというべきである。

なお、前掲乙第二号証、成立に争いのない甲第一二号証、乙第一号証によると、本件特許は、昭和五七年三月二六日になされた、名称を「ぜんまいの乾物製造装置」とする発明の特許出願(昭和五七年特許願第四九八九六号)を原出願とし、そこから分割出願(昭和六〇年特許願第八四七六九号)されたものであるが、原出願においては、特許請求の範囲として、「胴周面に張設した網目を通して通気可能にした処理胴を機枠に回転軸を水平にして架設し、この処理胴の外周にこの処理胴の自転により風を起こす起風体を付設し、この起風体により処理胴内への通気を助長せしめる事を特徴とするぜんまいの乾物製造装置」と記載され、通気方法が「胴周面に張設した網目を通して通気」するものに限定されていたことが認められ、本件発明の特許請求の範囲の記載は、原出願のそれに比較して広い記載とされていることが明らかであるが、分割の対象とすることができる発明は、原出願の特許請求の範囲に記載されたものに限られず、発明の詳細な説明又は図面に記載されたものであっても差支えないものと解されるから、本件発明の特許請求の範囲が原出願のそれより広い記載になっているとしても、そのことが、本件発明の技術的範囲の解釈に影響を与えるものでないことは明らかである。

3  他方、イ号物件の構成については、前記第二において引用に係る原判決での認定のとおりであり、それによると、イ号物件が、右2における「通気可能な回転体」を有するものであることは明らかである。

4  以上2及び3によるならば、イ号物件の「回転体」については、本件発明の構成要件aのうちの「通気可能な回転体」を充足するものというべきであり、更に、イ号物件のその余の構成が本件発明の構成要件a中のその余の構成部分を充足することについては、被控訴人らにおいて明らかに争わないところである。

以上によれば、イ号物件の構成は、本件発明の構成要件aを充足するものというべきである。

三  争点2(本件発明の構成要件bの解釈及び適用)について

1  本件発明の構成要件bは、「回転体の回転速度をぜんまいが遠心力により回転体上部まで上がり落下することを繰返す速度に制御することによりぜんまいの綿取りと揉捻とを行う」というものである。

そして、「制御」の文言は、一般的には、「機械や設備が目的通り作動するように操作すること」(新村出編「広辞苑(第四版)」株式会社岩波書店平成二年一一月一五日発行一四一〇頁)を意味し、「繰返す」とは「反復する」ことを意味することは当然である。

しかしながら、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第三一号証(原田誠作成の「回転体内におけるぜんまいの上昇落下運動について」と題する書面)によれば、<1>乾燥前のぜんまいは、多量の水分を含んでいるから重量があり、これを本件発明のように内部を空洞とした回転体内に収納して回転させた場合、摩擦力が大きく働いて内壁に押しつけられ上昇落下を繰り返すが、乾燥が進行するとともに重量が軽くかつ摩擦係数が小さくなるから、内壁とぜんまい、あるいはぜんまい同士が滑りやすくなり、摩擦力と遠心力のバランスが崩れて、ぜんまいが回転体の下部に滞留するようになること、<2>そこで、再度ぜんまいを上昇させるには、遠心力を増加させるために回転体の回転数を上げ、以後ぜんまいの乾燥度合いに応じて同様の回転数の調整が必要であることが認められ、このことは、物理的法則からみて前掲乙第三一号証の記載によるまでもなく当然のことであるから、当業者にとって技術的に自明な事項というべきである。

そうすると、本件発明の特許請求の範囲をみた当業者において、本件発明における「制御」とは、回転体の回転を回転開始時点において設定した回転数に固定して乾物化を行う方法も含むと当然に理解するとはいえないから、本件発明の技術的範囲は、発明の詳細な説明及び図面の記載を参酌して判断すべきものというべきである。そこで、前掲乙第二号証に基づき本件明細書の発明の詳細な説明を検討すると、そこでは「制御」の技術的意義自体については何ら定義されていないが、本件発明の作用効果については前記一5及び6のとおりの記載があり、本件発明がこのような作用効果を奏するためには、前記技術的に自明な事項に照らし、回転体内に収納されたぜんまいの乾燥化の進行度合いに応じ回転体の回転数を調整する必要があるというべきであり、本件発明の特許請求の範囲に記載された構成をもってしては、回転体の回転を回転開始時点において設定した回転数に固定して乾物化を行う方法によって発明の詳細な説明に記載された本件発明の作用効果を奏することはできないことが明らかである。このことは、前掲乙第二号証を検討しても、発明の詳細な説明中に回転体の回転を回転開始時点において設定した回転数に固定する記載も示唆すらも存しないこと、原審の検証の結果によれば、イ号物件から木製の桟を除去したものに、ぜんまい(検証の三日前に採取した約四〇キログラムのぜんまいを、約一日天日干しをし約一九・二キログラムになったもの)を収納して乾燥及び揉捻を行った実験において、回転体の回転数を当初毎分三八回転に設定して回転させたところ、乾燥度が進むにつれて重量及び摩擦係数が変化し、約二時間後にはぜんまいはその下部に滞留して上がらなくなったこと、そこで回転数を毎分四八回転にまで上げたところ再び上昇落下運動を行うことができたことからも裏付けられるところである。

控訴人らは、前記「制御」の意味は、「回転体の速度は、遠心力、摩擦力とがほぼ釣り合い、ぜんまいが、回転の遠心力により回転体上部にまで上がり、そこに至ると、自らの重力により遊動落下して離散乱舞することを繰り返すような速度に調整する」ことであり、機械操作の最初に、ぜんまいがその量や乾燥の度合い等により、上昇、落下することを繰り返すような速度になるように回転体の回転速度を適正な回転数に設定し、その後は回転数を調節しない場合をも含むものであると主張するが、前記認定の技術的に自明な事項及び本件明細書の記載内容並びに原審の検証の結果に照らし、控訴人らの右主張は採用の限りではない。

したがって、本件発明の特許請求の範囲に記載された「制御」とは、「回転体の回転による綿取り揉捻工程の開始後、ぜんまいの乾燥の進行等に伴う上昇、落下状況の変化に合わせて、工程の途中で回転速度を操作、調整すること」を意味するものというべきである。

2  一方、イ号物件の概要、イ号物件の綿取り揉捻作用、イ号物件から木製の桟を取り外した場合の作用状況については、原判決二六枚目裏一一行目から同二九枚目表一一行目までに各記載のとおりであるから、これらを引用する(ただし、同二七枚目表一一行目の「イ号物件目録」の次に「別紙2」を加え、同枚目裏二行目の「一部づつ」を「一部ずつ」に改め、同一〇行目の「甲第二二号証」の次に「、前掲乙第三一号証」を加え、同二八枚目表一行目の「ω」(二か所)を「ω2」(二か所)に改め、同枚目裏四行目ないし五行目の「、木製の桟の存在によって、前記の臨界回転数以下で使用することが可能であること」を削り、同二九枚目表一行目ないし三行目の括弧書を削り、同枚目表九行目の「遠心力の作用」の次に「のみ」を加える。)。

3  そこで、以上のようなイ号物件の構成、作用と、本件発明の構成要件bとを対比するならば、

(一) 本件発明の要件bは、「回転体の回転速度を、ぜんまいが遠心力により回転体上部まで上昇、落下することを繰り返す速度になるように、ぜんまいの乾燥の進行等に伴う上昇、落下状況の変化に合わせて、回転速度を操作、調整することにより、ぜんまいの綿取りと揉捻とを行うようにした」ことを意味するのに対し、イ号物件によるぜんまいの綿取りと揉捻を行う方法は、「木製の桟の存在により、ぜんまいが遠心力により回転体上部まで上昇、落下することを繰り返す速度になるように、回転体について当初に設定した適正な回転速度を維持し、これを変更、調整することなく、ぜんまいの綿取りと揉捻とを行うようにした」ものであり、この構成により、桟をもって乾燥化の進んだぜんまいについても回転体上部に掻き上げることが可能となり、当初に設定した回転体の回転速度を変更することなく、ぜんまいを乾物化させ、綿取り揉捻工程を終了させることができるという本件発明の奏し得ない顕著な作用効果を奏するものであるから、本件発明の要件bを充足するものではないというべきである。

(二) これについて、控訴人らは、イ号物件も、遠心力の作用によりぜんまいの上昇落下を行うものであり、その桟の作用効果は付加的、補助的なものに過ぎないと主張する。

しかしながら、原審における検証の結果からみるならば、イ号物件における回転体内のぜんまいの上昇について、回転体の回転に伴う遠心力が作用していることは否定できないものというべきであるが、回転体に設けられた桟も、それに劣らず右上昇に寄与していることは明らかであり、回転体の遠心力と桟の掻き揚げ力とが相まって、ぜんまいの綿取り揉捻工程を完了させるものというべきであるから、桟の作用効果が単に付加的、補助的なものに過ぎないとすることはできない。

四  以上によれば、イ号物件によるぜんまいの綿取り揉捻方法は、本件発明の構成要件aを充足するものではあるが、構成要件bを充足しないものというべきであるから、本件発明の技術的範囲には属しないものといわざるを得ない。

第五  よって、控訴人らの本訴請求をいずれも棄却した原判決は相当であって、本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法六七条一項、六一条、六五条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

口頭弁論終結の日 平成一〇年二月五日

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 持本健司 裁判官 山田知司)

(別紙) 本件発明についての図面

<省略>

<省略>

図面の簡単な説明

第1図は本発明の一実施例を示す斜視図、第2、3、4図は回転体内に於けるぜんまいの運動を示す説明図、第5図は回転体内で運動するぜんまいの説明図である。

1……ぜんまい、3……回転体、3’……遊動空間。

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